在宅支援診療

実例エピソード

沖縄リハビリ旅行
奮闘記

慈正会理事長レポート

脳内出血による
後遺症を乗り越え沖縄へ

「山尾さん、一緒に沖縄に行かない?」という言葉が全ての始まりでした。私に声をかけてくださったのは、デイケアを利用されている齋藤賀代子さんです。賀代子さんは、昔から明朗で社交的な性格。約50年前に結婚されたご主人と二人三脚で会社を支え続けてこられた方です。プライベートでも、ご主人やお仲間とゴルフやフィットネスなどをなされる自他とも認める活動家。そんな賀代子さんが脳内出血を起こしたのは、2009(平成21)年のことでした。左半身麻痺や注意力低下などの障がいが生じ、他病院に入院中からリハビリテーションを始めました。退院後も当法人デイケア・デイサービスを利用してリハビリを続けた結果、5年が経過した2014(平成26)年5月には、手すりや杖などを使えば、自宅や行き慣れた屋内外をほぼ見守りなしで歩いて生活できるほどに回復されました。そんな賀代子さんが、ご主人やお友達と同年6月中旬の沖縄・宮古島旅行を計画したというのです。これもご縁と思い、旅行の介助兼リハビリテーション担当として 同行させていただくことにしました。

夢を叶えるためのリハビリ計画

さっそく旅行の行程表を見せていただくと空港や公道などはある程度バリアフリーではあるもののホテルや観光先によっては、段差や坂などが結構あります。移動は、すべてレンタカー。それもマイクロバスからセダンのタクシーに至るまで様々な車で乗り降りをこなす必要があります。私は「みんなと同じリゾートホテルに泊まって、一緒にいろんな場所を訪ねてみたい」という賀代子さんの強い思いと、ご主人の意向を尊重させていただいた上で、少しでも安全で円滑な移動や動作ができるようリハビリ計画を立てました。作業療法士などのリハビリチームのもと、出発までの1カ月半のプログラムには、靴なしの床上とマット間の往来歩行、階段や坂を用いた段差勾配の移動訓練、様々な車での乗降練習などを組み入れました。ほかにもご自宅での訪問指導や自主運動も取り入れながら練習に練習を重ねました。

いよいよ本番!
沖縄滞在中の実践が自信に!

宮古島空港を経由して到着した念願のリゾートホテルは、バリア「フリー」でなく「アリー(有り)」でした。段差や勾配は、これまでの機能回復や練習が功を奏し意識してほぼ自立歩行ができました。フローリングやじゅうたんでの移動は、2日目以降コツをつかんで移動ができるようになりました。難関と思われたトイレも、最も容易なバランス動作の方法を伝授することで、自力でドアを開閉してトイレに行くことができるようになりました。南国のおいしい郷土料理やドリンクを多く嗜み、いつもよりトイレも近く回数も多かったそうですが、試行錯誤の末、ほぼ自力で用を済ませることができました。賀代子さんは、滞在中の実践で「やればできる」と次第に自信をお持ちになったようでした。

okidammy

砂浜を主人と2人で歩きたい

このまま順調に旅の行程が進んでいきそうだと感じたときのこと。目の前に広がる海と砂浜を見た賀代子さんが、突然「砂浜を主人と2人で歩きたい」と声を上げられました。実は「砂浜での歩行はリハビリに効果がある」という話題をテレビで知った賀代子さんは、期待も含めて今回の旅行で砂浜での歩行にもチャレンジしたいと思っていたのです。私は、一瞬戸惑いましたが、この切なる願いをなんとか叶えたいと思いました。与えられた時間は2日間。1日目は、何度もチャレンジするも力みもあって断念。そして2日目。晴れわたった風のない砂浜でまず足のストレッチ。続いて硬いコンクリート地面から水気のある固めの砂地で適切な歩行を実践。そして乾いた砂地へ。はじめの1歩は、砂に足が沈みました。2歩目も同じ失敗を覚悟した時でした。スッと2歩目がでたのです。足や膝の過度の緊張や屈曲もなく3歩、4歩…さらにまた1歩、また1歩…と。その様子は、まるで共に歩んできたお二人の人生を噛みしめるかのようでした。20mを超えたころでしたでしょうか。達成感と安堵の気持ちが込み上げ3人でゆっくりと砂浜に倒れ込みました。賀代子さんは「本当はもう少し歩きたかった」とおっしゃりながらも、満面の笑みでご主人と目を潤ませていました。

バリアを
リハビリテーションの道具と捉える

今回のリハビリ旅行で私は、私たちが常に意識している「生活に密着したリハビリテーション」をある程度、形にできたと思っております。私たちが日々関わる方々は、病院に通院または施設に通所して治療や訓練を受ける「患者・障がい者」ではなく、地域での住まいを主体的に営む「生活者」です。そうした方々に、在宅生活や社会参加に向けたリハビリテーションをどのように提供していくか。在宅や地域に密着する私たちは、常にこの課題と使命を忘れてはなりません。今回の旅行は「生活者としての活動ひとつ=旅行」と「リハビリテーション」のあり方という面でも多いに学ぶところがありました。「バリアフリー旅行」と異なり、階段や段差などのバリアを排除するのではなく、逆にリハビリテーションの道具と捉えて食事をし、砂浜を歩く…。そうして家族や仲間と一緒に旅行先での様々な経験を工夫しながら楽しむ過程の全てがリハビリテーションでした。本来、リハビリテーションとは障がいが残っても、その人らしい生活を最大に保ちながら身体機能を自身の人生に「再適応」させてゆくことです。それゆえに今回のような旅行もその人らしい生活を充たすリハビリテーションになるのだと、賀代子さんもご主人も私も実感いたしました。

その人らしさを求めるリハビリテーションの追求

今回の旅行が在宅の医療・介護の現場で私たちが抱く疑問「自分たちのリハビリテーションは日常生活で活かされているのか?」に、ひとつの答えを導き出したと感じています。今回の経験から私たちは「その人らしさを求めたリハビリテーション」を、他の方々にも広く提供していこうと決意を新たにいたしました。

■実例レポート|沖縄リハビリ旅行奮闘記(2014年11月記)

※この度の体験談の紹介にあたり、取材ならびに掲載へのご承諾ご協力をくださいました斎藤賀代子さま並びにご主人さまに心より感謝申し上げます。